「風邪は治ったはずなのに、咳だけがずっと続いている…」
「夜中になると子どもが咳き込んで、眠れなくてかわいそう…」
シンガポールで子育てをしている日本人のご家庭から、こういったご相談をいただくことがよくあります。常夏の国に住んでいても、子どもの体はさまざまな環境の影響を受けやすく、特に呼吸器系のトラブルは珍しくありません。
その中でも多いのが「気管支炎」です。
咳が1週間以上続いたり、痰や喘鳴(ゼーゼー音)が出る場合は、気管支炎の可能性があります。
今回は気管支炎の特徴と、シンガポール特有の環境要因、治療法、ご家庭での対策について解説します。
気管支炎とは?
気管支炎とは、気管支(肺に空気を送る通り道)がウイルスや細菌などで炎症を起こしている状態です。
風邪と似た経過をたどりますが、咳が長引くのが特徴です。
また、子供は気道が細く、免疫力もまだ発達していないため、特にかかりやすい傾向があります。
気管支炎の種類
気管支炎は大きく分けて大きく2種類あります。
1. 急性気管支炎
急性気管支炎はウイルス感染が原因で発症するケースが多く、風邪の延長で起こります。
風邪の症状がみられた後に咳が出る場合は、急性気管支炎を疑います。
症状は数日から数週間程度で治まることが多いです。
2. 慢性気管支炎
慢性気管支炎は、アレルギーなどの環境的なもの、空気中の有害物質、受動喫煙を含め喫煙で炎症が起こり、気管や気管支に慢性的な炎症が起こります。
原因不明の咳や痰が1年のうちに3か月以上持続し、なおかつそれが2年以上続いている場合は慢性気管支炎を疑います。
気管支炎の主な症状
発熱
38度以上の高熱が続くことがある、また発熱を繰り返すこともある。
咳
初期は乾いた咳から始まり、次第に痰が絡む咳に変わる。激しい咳込みや、咳で吐きそう になる場合もある。咳と一緒に痰が出る。
喘鳴
呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と音がする。
息切れ
呼吸が速くなる、呼吸が苦しそう、呼吸が浅くなるなどの症状が現れることがある。
その他の症状
頭痛、喉の痛み、倦怠感、食欲不振など。
通常はウイルスが原因の「急性気管支炎」が多く、2週間程で自然に治るケースが多いですが、咳が2週間以上続く場合や喘鳴を伴う場合は、喘息や肺炎の可能性も視野に入れて受診が必要です。
シンガポールで気管支炎にかかる要因
シンガポールは高温多湿で四季がなく、日本とは異なる生活環境です。
気候や生活スタイルの違いが、子どもの呼吸器に少なからず影響を与えます。
エアコンによる冷えと乾燥
多くの家庭や学校、ショッピングモールでは冷房が1年中強く効いており、外との寒暖差が非常に大きくなります。特に体温調節機能が未熟な子どもは、冷えから体調を崩しやすくなります。さらに、エアコンは空気を乾燥させるため、気道の粘膜が刺激されやすく、咳が出やすい状態になります。
ヘイズ(煙霧)
毎年6月〜10月頃になると、インドネシアの焼き畑農業の影響で大気中に「ヘイズ(煙害)」が発生することがあります。これはPM2.5などの微小粒子が空気中に漂う状態で、呼吸器にダメージを与えやすく、小児の気管支炎や喘息の要因となります。
カビ・ダニ・ハウスダスト
シンガポールの湿度は年間を通して80〜90%と非常に高く、室内にカビやダニが繁殖しやすい環境です。これらはアレルギーの原因になりやすく、アレルギー性気管支炎や小児喘息の原因にもなります。
気管支炎の治療法
気管支炎は原因や症状によって、治療法が異なります。
多くはウイルスによる一過性の炎症で、安静・水分補給・対症療法で自然に治りますが、症状によってはお薬処方を行う場合もあります。
鎮咳去痰薬
・デキストロメトルファン
・クロペラスチン
咳を引き起こす咳中枢の抑制作用や気道を広げる作用などにより咳などの呼吸器症状を緩和します。
※注意
咳は痰を出すための「防御反応」であるため、無理に止めすぎないことが大切です。
夜間の咳がひどい場合に限り、一時的な補助として医師の判断で処方されるケースが多いです。
去痰薬
アンブロキソール
肺粘液の生産を高め、痰と気道粘膜との粘着性を低下させ、線毛運動を亢進させることにより、痰を出しやすくします。
カルボシステイン
主に呼吸器系の疾患で痰の切れを良くする薬として使われます。痰や鼻汁を出しやすくし、鼻づまりを和らげる効果があります。
気管支拡張薬
サルブタモール(β2刺激薬)
気管支平滑筋を弛緩させ、気管支を拡張させることで、呼吸を楽にする効果があります。
テオフィリン系(内服)
管支の拡張や呼吸中枢の刺激作用などにより喘息や気管支炎などの咳や息苦しさなどを改善する効果があります。
サルブタモール(β2刺激薬)
気道の炎症を抑え、喘息による咳の発作などを予防する吸入薬です。
抗生物質
細菌感染が疑われる場合に限り処方されます。(ウイルスには無効)
多くの急性気管支炎はウイルス性のため、抗生物質は不要なケースが大半となります。
ご家庭でできるケア

十分な休息
気管支炎になってひどい咳が数日続くと、体力が消耗されてしまいます。
横になり安静にし十分な睡眠をとり休息をとる事が大切です。
こまめな水分補給
こまめに水分を摂ることで喉の奥で痰が固まることを防ぎます。
また痰が切れやすくなるだけではなく、喉から痰を出しやすくなります。
エアコン温度を高めに設定(27〜28℃)+加湿
エアコンの設定温度をやや高めにすることで、冷気による気道への刺激を軽減できます。
さらに、加湿器を併用するか、濡れタオルを部屋に干すなどして湿度を保つと、乾燥による喉への影響に効果的です。
頭を高くして寝かせる
頭を高くして寝ると、気道が確保されるので呼吸をしやすくなり、咳が和らぐことがあります。
クッションなどを活用するとよいでしょう。
また、痰が絡みにくくなるため、咳き込みを抑えることに効果的です。
市販の咳止めは小児には使用が難しい場合もあるため、自己判断で使わず医療機関へ相談しましょう。
予防・対策
子供の気管支炎を防ぐには、日常の予防が重要です。
手洗い・うがいを徹底する
外出後や食事の前後は、石けんでの丁寧な手洗いとうがいを習慣にしましょう。
ウイルスや細菌の侵入を防ぎます。
マスクを着用する
ヘイズ(煙霧)や空気が乾燥している時期、人が多い場所に出かける際はマスクの着用で保湿と感染予防ができます。
生活習慣の改善
ビタミンやミネラルを含む、栄養バランスの良い食事を心がけ免疫力を高めましょう。
また、寝不足は免疫機能を低下させます。十分な睡眠時間を確保しましょう。
ダニ・ハウスダストの除去
寝具やカーテンは定期的に洗濯し、掃除機もこまめにかけましょう。
アレルギー性の気管支炎の予防にも有効です。
空気清浄機や加湿器の活用
エアコンの設定温度が低すぎると室内が乾燥します。
加湿器を活用し適度な湿度(50〜60%)を維持することで、喉を乾燥から守ります。
また、空気清浄機で室内の空気を清潔に保つことも大切です。
気管支が弱い子供の場合は、喘息との関連も考慮し、かかりつけ医と相談しながら予防・管理を行うことが重要です。
まとめ
咳が長引く=よくあること、ではありません。
子どもの咳は「成長とともに改善していく」と言われることもありますが、咳が長引く=放っておいてよいものではありません。特に気管支炎は、適切なケアをしないと、喘息の発症や肺炎への移行といったリスクもあるため注意が必要です。
シンガポールという慣れない環境の中で、お子さんの健康を守るためにも、おかしいな?」と感じたときは、早めに専門の医療機関へ相談することが大切です。

監修医師
古東 麻悠 (ことう まゆ)
順天堂大学医学部卒業。日本国内の総合病院で小児・新生児医療に従事。現在は、子どもたちの健康・教育に関わる企業の医療アドバイザーを実施。ライフワークは途上国での医療ボランティア、理念は「すべての子ども達に選択肢を」。2児の母。